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ジャズの魂と、モノづくり:Higashikawa Makers #04 アーリー・タイムスα

Higashikawa Makers:
写真の町・北海道東川町で、思いを形にする方々のストーリーを発信する記事シリーズ。こちらで紹介する家具や食べ物、雑貨たちは、ひがしかわ株主制度(ふるさと納税)特設サイトに掲載をしております。


職人と機械が織り成す、調和のとれた家具

アーリー・タイムスα(アルファ)は1952年、菊池木工として旭川で開業。
そこから約70年、使い手に喜んでもらえる仕事を追求し、旭川家具の歴史と共に歩んできました。現在では東川町に本社と工場、ショールームを構えるほか、東京とニューヨークにも拠点を持っています。
環境に配慮された無垢材を多用し、木そのものの持つ強さと美しさを大切にしながら、仕上げの工程にきめ細かな配慮を施すアーリー・タイムスα。
長く使える本物の家具づくりの、軌跡を辿ります。

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東川工場ができるまで

始まりは現会長、菊池晋さんの父が開業した建具屋でした。
現在は東京のオリジナルショップと東川を行き来しながら、店外催事にも飛び回る青森宏悦さんが代表を務めます。

「終戦後、父が丁稚奉公で北海道に来たんですよ。その後、修行して建具屋として独立したのが始まり。旭川に木工団地ができるという流れで最初の工場は旭川にあった。続けるうちに、建具だけでは経営が成り立たないということで、食器棚作りを始めたのが家具メーカへ転身するきっかけでした」

1962年には、生産体制を家具だけに絞ります。生産アイテムも増え、モノづくりに適した広い場所を探していた時に東川の工場地に出会い、移ってきたそうです。広々とした作業環境と豊かな自然がある東川を、働く皆が気に入りました。

あーりー

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職人と機械の共存

業界の中でも早くから機械技術を積極的に取り入れてきた、アーリー・タイムスα。先代から受け継がれた教えの中に、「機械と人の共存を計りながら自分たちにしか出来ないモノづくりをする」という思いがあったと菊地さんは振り返ります。

「父は機械マニアでした。食事の時、嬉しそうに機械の話をしていましたよ。マニュアル通りに使うのではなく、鉄工所の人を呼んで改造して、もっといい生産方法を工夫できないか考えたりね。ある程度の手間を機械で省いて、手をかけるべき所に人の手を使う事に拘りを持っていました」

あーりー➌

機械が削ったカーブを、職人が長年培った感覚でサンドペーパーをかけて仕上げていく。30年以上のベテラン職人から若手まで、技術の継承をしながら、製品のクオリティを常に保っている。

あーりー➋

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ロゴに込めたジャズの魂

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企業ロゴは楽譜の五線譜を木目に例えて、モチーフにしたもの。
アーリー・タイムスαにとって音楽は、モノづくりに欠かせない要素だと青山さんは言います。

「家具のシリーズ名に『ポルカ』『シンフォニー』『コンチェルト』『タクト』など音楽用語を使用しています。叔父がニューヨークでジャズをやっていることもあって、生活の中に「音楽」があるように、家の中に「家具」があって欲しいという願いを込めています。苦しい状況でも自由を求めて、人生を楽しむ気持ちを忘れずに生きるジャズの魂とモノづくりには共通点があります」

使い手の気持ちを一番に考えて届けられる家具は、音色を変えて交差するメロディのように心地よく、暮らしに寄り添っていきます。

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靴と家具は同じ。ちょうどいいサイズが必要

棚ものと言われる(#01にも出てきた単語ですね!)、食器棚からはじまった同社が、椅子やテーブルなど、多くの種類を製造することになる背景には日本の住宅環境の変化もありました。家具が、部屋全体の印象を決めるものとして機能するようになったのです。

「部屋全体の価値を高めるには、空間の中で家具をどう見せるかが重要です。シリーズで入ると、部屋の雰囲気や使い勝手は良くなりますからね」

フルアイテムが揃うナラ材を使った「ポルカ」シリーズは発売から40年近く経つ今も人気があります。北海道らしい無垢材の重厚感あるデザインに加えて、人気の理由には、多彩なサイズバリエーションを用意した点にもありました。

「バイヤーや販売店だけの声に頼るのでは無く、エンドユーザーの声を知りたくて、1986年に東京にアンテナショップを作りました。お客様の声を聞いていくうちに、10センチ刻みでサイズ展開(!!)をする重要性を知りました。言ってみれば靴と家具は同じです。ちょうど良い大きさが必要ということ。それであればと、サイズ展開を広げてカタログに全て載せたんです。ショップを通して、家具作りの本質も見えてきました」

あーりー➍

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長く使える家具にするための素材選び

「いい素材は家具の寿命を左右する」。材料には米国産「フェアウッド」といわれる、環境や社会影響に配慮した無垢材を使っています。種類はウォールナット、チェリー、ハードメープル、ホワイトオークの4種。北海道でも一時品薄になっていた良質なナラ材が増えたので、現在は道産材も使用しています。
用途に合わせて、一枚板による反りや歪み、割れを防ぐには欠かせない「銘木単板(めいぼくたんぱん)」と呼ばれる突板*を利用します。板を薄くスライスし、圧力を掛けて歪曲し成型するスーパー成型も得意。どちらも木目の美しさをより楽しめるようにと発案された、職人と機械の融合で生まれたこだわりの素材なんです。
(*:天然の木材を薄くスライスした板材のこと)

木を消費する立場である以上、自然の仕組みを理解して環境を考えた材料に目を向けなければならないです。材料だけでなく、使い方も大切ですね。3Rと言って、リサイクル、リユース、リデュースという言葉があります。リデュースは『直す・リペア』の意味を持ち、無垢の板を使えば削ることで、長く使える家具が作れます。うちでは天板がネジで外せて修理しやすい家具も作っています」

ダイニングチェアDC-4H01

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モノづくりの根底にある思い

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青森さんは、東京のアンテナショップに1994年に入社。
販売、営業、卸への対応などの経験を積み、工場の監督も任されるようになりました。経営者となった今も、現場でのお客様対応に力を注ぎます。

「販売イベントやショールームで、スタッフと一緒に接客をします。社長だからと言って経営のことだけを考えるのは自分らしく無いと思っている。お客さまの思いをダイレクトに感じ取れる機会は商品づくりに生きますからね。多くの人にモノの価値や、ストーリーを知ってもらいたい。どんな土地でどう言う風に作られているかの土台を知ってもらうことで、心の豊かさも増すと思っています

普段は東京にいる青山社長と東川にいる菊池会長が顔を合わせる機会は少ないものの、モノづくりへの思いはしっかりと重なっています。

「先代から引き継がれてきた思いは自分と同じと再確認できました。使う人の喜びを第一に考えたモノづくりがあって、さらに向上心を持っているという点。今の形が全てでは無いという意識は会社全体でこれからも持っていたいですね」


優れた技術や技能に奢る事なく、謙虚な姿勢でモノづくりを続けるアーリー・タイムスαの精神は家具の質を高め、表情をより豊かにします。

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note編集者的すてきポイント

機械や環境と「共存」する道を考え続けて実践している事業者さんなんだな、というのが率直な感想。記事を編集する度に、棚もの、突き板、銘木単板などなど新たなボキャブラリーが増えていくこともうれしいこの頃です。
アーリータイムスαさんの椅子「ダイニングチェアDC-4」は、無垢材の木目に沿って凹凸が出るような加工がしてある座面に、座ってごらんと言わんばかりの”くぼみ”も兼ね備えていて、ついつい吸い寄せられてしまいます。DC-4、せんとぴゅあⅡの学習室でみなさんを待っています!


30.アーリータイムスα

アーリー・タイムスα
1952年に旭川市にて創業。事業拡大と生産ラインの合理化・ショールームの充実のため、1988年に東川町に移転した。お客様のニーズを満たすだけでなく、プラスアルファのデザイン・機能・使い心地の提供を大切にしている。シンプルでベーシックなデザインを基本とし、豊富な・種類・サイズ・色で家一軒トータルコーディネイトも可能。広いショールームがあり、展示している現品や試作品や「ちょい傷品」などを、お得な価格で提供している。

住所: 北海道上川郡東川町北町13丁目1-1
電話: 0166-82-2400
公式HP:https://www.early-times.jp/


取材・構成・執筆:塚越 さち
写真:ハン・キョンホ
note編集:大内 美優(地域おこし協力隊)