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家具は、道具だから:Higashikawa Makers #08 東10号工房

Higashikawa Makers:
写真の町・北海道東川町で、思いを形にする方々のストーリーを発信する記事シリーズ。こちらで紹介する家具や食べ物、雑貨たちは、ひがしかわ株主制度(ふるさと納税)特設サイトに掲載をしております。

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町の中心地から、車で旭岳に向かって15分。あたりは見渡す限り田んぼ、今朝はうさぎが5羽くらいの群れで庭の草を食べにきたらしい。敷地内に元気に響く、井戸を掘る機械の音。クリームソーダ色の工房に一歩入れば、木の香りがぶわっと。今日お話を伺うのは、東10号工房のお2人。デザイナーの清水徹さん(monokraft)と、家具職人の遠藤覚さん(enao)です。

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お2人はそれぞれが屋号を持っていて、2019年に合同で東10号工房を設立。製作の拠点を、東川町に移しました。


1.  強い形、見えないデザイン

家具は道具だから、作り手の姿が見えちゃうのはよくない。

細部までこだわり抜いているけれど、シンプルで、使いやすい。「デザイナーの意図は見えず、ただ1つの道具としてそこに存在できる強い形」の物づくりを、東10号工房では大事にしています。

いつもつけているマスクだって、そこにあるのこぎりだって、作った人のことをとくに意識せずに使っているけどよくできている。それと同じように、使う人の生活に自然に溶け込む家具をつくることが、お2人の目指すところなんだそうです。

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そんなお2人の考え方の根っこには、スウェーデンの小さな工芸学校、Capellagården(カペラゴーデン)で過ごした時間があります。木工家具、​テキスタイル、陶芸、園芸のコースを有している全寮制の学校です。


2.  天国みたいな場所、カペラゴーデン

カペラゴーデンは、17歳以上であれば誰でも入学することができる北欧独自の教育機関の1つ。ただし、学校といっても、試験も単位もなく、成績もありません。自分は何が好きで、何を学び、どう活かしていくのかを見つけ出すための場所です。ここで、2009年に清水さんと遠藤さんは出会いました。

(遠藤さんのスウェーデン突撃訪問日記は、こちら。「その1」からすでにめちゃくちゃ面白いです)


カペラゴーデンでの生活

カペラゴーデンに集う方々は、育った国や年齢、経歴が多種多様。いろんな人と共に過ごして、日本人が思うものとは全く違う「家具の作り方」たちに触れました。

その1つが、デザイン性が高く、それでいて実用的な北欧家具。シンプルであることの豊かさや、ミニマムの美しさを追求するその家具作りは、「強い形、見えないデザイン」へとつながる大事な要素です。

そして、すべて自給自足のカペラゴーデンでの生活も、お2人の価値観に大きな変化をもたらしました。4つの科で分担して、お皿、マット、野菜、家具、ぜんぶ自分たちでつくっていたそうです。

カペラゴーデン行ってなかったら、今頃はいち工場で働いていたかと思う。給料だけもらえればいいや、くらいの考え方で。

工業的な大量生産から離れ、自分の手で自分の暮らしを作った日々が、東10号工房さんの理にかなったものづくりの根底にあるように感じました。


遠藤さんへの杖

カペラゴーデンでは、家具職人資格(Gesällstycke:ゲセル)を取得した人に、後輩が杖を送るシステムがあります。

2人の思い出の品、清水さんが遠藤さんに作ったオリジナルの杖を見せてもらいました。笛のように中が空洞になっていて、吹くと音が出ます。

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卒業制作が楽器関係の社長さんへ作ったものだったから、それにちなんで音符の形。先端の鳥小屋は、お金がないときに、先生の提案で鳥小屋を作って売っていたから。土台の傷は、3年生の1番忙しいときにゆたんぽで重度の火傷を負った、その痕を再現。遠藤さんの3年間が詰まっています。

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お庭にある遠藤さん作の鳥小屋

3.  えいやっと、東川に

清水さんと東川町の出会いは、2004年。スウェーデンに行く前でした。
2001年に立ち上げたmonokraftでの仕事で、紹介してもらった材木屋さんが旭川で、製作は東川町内にある家具工場(インテリアナス)に頼むことに。その時に初めて訪れた東川の、街全体が醸す雰囲気に惹かれます。

まだ、今のようなおしゃれなお店が立ち並んでいなかった時。
本州とは異なる、広葉樹が広がる光景に、心惹かれたといいます。
清水さんは、いつか東川町に工房を持ちたいと思うようになりました。

5年ほど前に念願が叶って、知人を通じて築50年の木造二階建てに出会い、全面改修。そこからは、アトリエと、夏と冬に家族で遊びに来る別荘として度々訪れていました。

2019年には遠藤さんに声をかけて「東10号工房」を設立し、敷地内に工房を増設します。

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行き来を繰り返し知り合いが増えていくうちに、東川で暮らすイメージが鮮明になって来て、2021年の春、家族で東川町に移住しました。

一方遠藤さん、本人によると、東川に来たのは「清水さんに騙されたから(笑)」。というのは冗談で、清水さんが一緒に工房をやろうよと誘ってくれたから、流れに身を任せて、えいやっと東川に来ました。

実は、10年ほど前、スウェーデンから帰国するぞ、というときに東川町のお隣・東神楽町にある旭川家具の工房にお声掛けいただいたことも。でも、神奈川で空いている工房があることを教えてもらって、独立するなら今だと思い、2011年にenaoを立ち上げます。

それでつながりができたこと、また、帰国後も連絡を取り合っていた清水さんがちょくちょく出入りしていたこともあって、1年間に1度だけ東川町で開催される植樹祭に参加をしていました。まったく無縁の場所ではなかったようです。

それと、ちょうど結婚するタイミングで、パートナーの方が北海道出身だったため、本州ではなく北海道で暮らそう、となったのがこの時。
色々な出会いや偶然が重なって、今、東川で製作をされています。

空気の乾燥具合とか、夕方の風とか。東川にいると、ハッとした瞬間に、スウェーデンを感じることがあるというお2人。東川とスウェーデン、雰囲気がどことなく似ているのかも。


4.  人とともに老いる家具

「強い形、見えないデザイン」に加えて、大事にしている価値観がもう一つ。それは、人間と一緒に歳を重ねていく、「老いる家具」です。

変わらない、老いないってよく考えたら不自然。人間も家具も、もっと自然でいいんじゃない、という思いがこもっています。

清水さんは、家の床や壁に傷がつこうが、子供が落書きしようが、むしろやってくれというスタンス。まさに、自然に身をまかせる生活を楽しまれています。使ってこそ、傷がついてこそ、味が出る。野球のグローブは、地面に踏みつけてから使うタイプだそうです。

清水さんのみならず、東川は、不自然なものに問いを立てて、自然な変化を楽しむ方々が多いように感じます。それが、町のゆったりとした空気につながっているのかもしれません。

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ひがしかわ株主特設サイトに掲載中の東10号工房さんの椅子

liten stol
とにかく子どもの安全を考えた椅子。4本足がなく、ささらない。
後ろから見たlisten stolがお気に入り by遠藤さん
acwアームチェアー
”自分の世界に浸かる時間と空間の均衡”
詩人の白井明大さんがacwアームチェアーに送ってくれた言葉。
“わたしの”椅子として、パーソナルな時間を持てるように。
東10号工房
木製家具のデザイン・製作・販売をするmonokraft(モノクラフト)主宰のデザイナー・清水徹と、家具工房enao(エナオ) の家具職人・遠藤覚によって設立された工房。キャビネットを中心に、清水がデザインと設計を担当、スウェーデンの家具マイスターである遠藤がその製作を担う。適材適所に素材を配置したシンプルで機能的なデザインを、手仕事でひとつひとつかたちにしている。2021年9月には家具ショールーム「東10号のアトリエ」をオープン。

住所: 北海道上川郡東川町東10号南6番地
電話: 080-3170-0579
公式HPはこちら


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編集者的すてきポイント

お話を伺った工房内のお部屋の中にもたくさんの小物や初めて目にする形の時計があってわくわくしました。いろんな場所でいろんなものに自分の手で触れてきたお2人と、もっとお話ししたかった!!

取材・執筆 大内美優
写真    清水エリ


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